Behind the build — Day 009

つくり方の全容

day9は、蓼科の森にある八室の宿「NOR(架空)」。今日からは、これまでとは少し角度を変えます。ウェブで「当たり前」とされているUIを疑い、アプリ的な使いやすさを取り入れていく連作の一本目です。今日はスマホの地図アプリでお馴染みの「画面下からパネルがせり上がるUI」を取り入れる、と決めて始めました。ところが、ぴったり当てはめてみたら宿には合わなかった——というところから今日の本題が始まります。直す前を順番に。完成形は一番下に。

01

アプリの作法を
そのまま借りてみた。

初稿。ヒーロー写真の上に丸サムネが4つ配置され、下に小さなパネルが半分のぞいている状態
初稿 — 写真の上に4つのサムネ、下に小さなパネル

初稿。スマホの地図アプリでお馴染みの「下からせり上がるパネル」をそのまま当てはめました。蓼科の風景写真の上に、八室・体験・食事・アクセスの丸サムネを4つ。タップで下からパネルが3割せり上がり、もう一度タップで9割まで。狙いは「地図アプリと同じ操作感」でしたが、見た瞬間にあっけない。1枚の風景写真の上に丸が4つ点いているだけで、宿の魅力が伝わってきません。これなら普通の縦型ウェブの方が、よほど良さが出ます。

出した指示1枚の風景写真の上に丸サムネが4つ並ぶだけだと寂しく、宿の魅力が伝わってきません。これなら普通の縦型ウェブの方が、よほど良さが出る。ファーストビューを根本から見直してください。

02

3割せり上がりの
「動機」が宿には無かった。

初稿のFV(4つの丸サムネ)の上に、下から3割せり上がるパネルが現れ、下の食事DINING・アクセスACCESSのサムネが隠れて押せなくなっている状態
直す前 — 3割せり上がりが下のサムネを覆う

情報密度を上げる試みも入れてみたものの、根本の問題が残っていました。地図アプリで「3割せり上がり」が成立するのは、その状態でも背景の地図をスワイプしたり、別の場所を見たりできるから。「背景を動かす動機」があってこそ中間状態が機能するのです。宿サイトの背景は固定の1枚写真。動かす理由がない。それどころか、せり上がったパネルが画面下のサムネを覆ってしまって押せなくなる。ここで方針を切り替えました。借りてきたUIを「そのまま」当てはめる発想を、まず捨てる。

出した指示アプリ的なUIは「そのまま」である必要はありません。ポイントで取り入れる形でも構わない。サイトの魅力を損なうのなら使う必要はない。いいサイトを作る、が上位の目的です。この前提でファーストビューから組み直してください。

03

縦型に戻して、
パネルは「深掘り」の入口に。

ヒーローのポラロイドから縦に編集セクション。お部屋・体験・食事・アクセスの各セクションに『詳しく見る』ボタン。最下部にアプリ的なタブバー
直した後 — 縦型編集 + 各セクションに「詳しく見る」+ 下部タブ

サイトの構造を一から組み直しました。トップは写真をマット風に並べたポラロイド。下にスクロールすると概念→八室→体験→食事→アクセス→予約と編集的に流れていきます。せり上がるパネル自体は捨てません。「詳しく見る」ボタンを押した時だけ全画面のパネルが上がってくる「ポイント使い」に切り替えました。中身は一覧→個別詳細の二段構成で、お部屋を選ぶとカードが右にスライドしてその部屋の詳細が出てくる、というスマホで馴染みのある操作感を入れています。画面下のタブバーは「予約してください」を連呼する押しの強いボタンではなく、サイト内を歩き回るための地味な目次として置きました。

出した指示予約ボタンが右下に常時あるのは、宿のサイトを見る人にとっては押し付けがましく邪魔です。サイト内の情報に辿り着きやすくするのが先。最下部はハンバーガーメニューの代わりとして、主要セクションを並べたバー型のナビに変更してください。

八室のセクションでは代表的な部屋を1室だけ載せて、「全室を見る」ボタンへ誘導。押すと一覧のパネルが上がり、各部屋をタップすると右にスライドして個別の部屋詳細が表示される二段構造に。詳細の最下部に「予約する」ボタンを置いてください。

04

PC版は
「スマホを真ん中に置いた紙面」。

PC版。中央に縦長カラム、左右に編集メタと章目次が並走、上に普通のナビ
直した後 — PC は中央スマホ縦長カラム + 左右に編集メタ

この連作は「スマホでの体験」が主役です。だからPCで開いた時に、無理にPC用のサイトを別に作るのは違う。中央に縦長のスマホ型カラムを置いて、その周りの広い余白に意味を持たせます。左には宿の編集メタ(場所・緯度経度・標高・今の時刻・天気・月齢)、右には章の目次。雑誌で本文の柱の左右に編集情報や脚注が並走するのと同じ作り。スマホでは邪魔だった情報を、PCの広い余白で生き返らせた感じです。下のタブバーは隠して、上のナビに切り替えました。

出した指示PCでは中央にスマホ縦長カラムを据え、その左右に編集メタ(緯度経度・標高・時刻・天気・月齢)と章目次を fixed で並走させてください。背景は全画面にヒーロー写真をぼかして敷く。下部のタブバーは隠し、画面上部の普通のナビに切り替えてください。

05

景色を、章ごとに
区切るのをやめた。

セクションの背景塗りを全部撤去。蓼科のぼかし写真が全画面を貫通し、各章は細い罫線で区切られている
直した後 — 全セクション透明、景色が章を貫通

PC版で気付いたんですが、各セクションに紙色のベタ塗りを敷くのをやめると、ずっと綺麗になります。蓼科の風景写真をぼかして全画面に薄く敷き、本文セクションは透明にして、章と章の間は1本の細い罫線だけで区切る。「景色の上に紙を載せる」のではなく、「景色そのものが章を貫通する」構成です。蓼科という場所感が前面に立ちます。トップのポラロイド写真も、PCでは正方形にすると額に入った写真感が出ました。

出した指示各セクションのベタ塗り背景を全部撤去して、全画面の景色がそのまま章を貫通する構成にしてください。章間の区切り線は視認性を少し上げて、編集的な罫線として効かせる。ヒーローのポラロイドは、PCでは正方形(やや横長)の方が額装感が出て座りが良いです。

06

そして、完成形。

完成形 PC — 中央スマホ縦長カラム + 左右編集メタ + 全画面ぼかし背景
完成 — NOR v1(PC)
完成形 SP — 同じ景色を貫通する縦型編集 + 下部アプリタブ
完成 — NOR v1(SP)

PC では中央のスマホ型カラムに本文が流れ、左右の広い余白に編集メタと章目次が並走。スマホでは下のタブバーから各章にすぐ飛べて、各セクションの「詳しく見る」を押すと下から全画面パネルがせり上がり、その中で一覧→個別詳細をめくっていけます。蓼科の景色は、PC でもスマホでも、全画面の奥にずっと薄く広がっています。借りてきた作法を丸ごと当てはめるのをやめて、要所だけで効かせる——その引き算が、今日の収穫です。

テーマは手段、
サイトが目的。

当たり前とされているUIを疑い、アプリ的な使いやすさを取り入れる——その狙いで始めましたが、宿の固定背景にはそのままの形では合いませんでした。途中で発想を切り替えて、アプリ的な作法は深掘りのパネルだけで効かせ、サイトの骨格は編集的な縦型に戻す。テーマに忠実であることが、サイトの魅力に勝つことはない。連作の一本目で確かめたいちばん大きな学びです。

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