Behind the build — Day 029

つくり方の全容

day29で作ったのは、おにぎり店の注文台帳です。電話で受けた大口注文——部活の差し入れ、会議、ロケ弁——を書き留めた手書きのメモを、スマホで撮ってLINEに送るだけ。AIが中身を読み取って、注文台帳に1件ずつ積み上がっていきます。サイトというより、商いの道具です。

スマホで開いた注文台帳。8/17のブロックに鮭25・梅15・昆布10の製造数と注文が並ぶ
撮って、OKと返すと、ここに1件増える

01

電話のメモを、そのまま撮る。

手書きの電話メモをスマホのカメラで撮ろうとしている画面
電話を受けながら書いた、いつものメモ

電話の注文は、受話器を持ちながらキーボードでは打てません。だから店のカウンターには、今日もメモ用紙があります。この仕組みは、その動作を何ひとつ変えません。書き方の決まりもありません。いつも通りに書いたメモを、手が空いたときに撮って、LINEに送る。新しく覚えることは、それだけです。

紙をやめさせない、という設計注文をデジタルにしたいとき、ふつうは「入力フォームを使ってください」とお願いすることになります。でも電話とメモが最速の現場では、それは定着しません。紙のまま書いて、撮るだけ——この一線を守ることが、今回いちばん大事にした設計です。

02

AIが読んで、確認を返す。

LINEのトーク画面。送ったメモの写真の下に、読み取り結果とOK・訂正・やめるの3ボタンが並ぶ
読み取り結果と、3つのボタンが返ってくる

写真を送ると数秒で、AI(Gemini)が読み取った内容が返ってきます。名前、受取日、時刻、品目と数——注文に必要な項目だけを、決まった形に整えて返してくる。あとは下のボタンで「OK 登録する」を押すだけです。違っていたら「鮭は30に」と打てば、その箇所だけ直ります。

登録するのは、AIではなく人読み取りの精度はかなり高いですが、それでも読み間違いはゼロにはなりません。だからこの仕組みでは、AIは下書きまで。台帳に載せる最終判断は、必ず人のOKを通します。確認はボタン1タップなので、手間はほとんど増えません。

03

OKで、台帳に1件増える。

LINEで「登録しました」の返信。日時と名前、注文台帳へのリンクが添えられている
登録完了。台帳へのリンクですぐ確認できる

OKと返すと、台帳に登録されます。台帳の正体は、Googleのスプレッドシート1枚。1品目が1行になって、注文が積み上がっていきます。読み間違いを後から直したいときや、キャンセルで消したいときは、シートをそのまま直せばいい——専用の管理画面は作っていませんし、要りません。

日付の計算は、AIにさせない「明日」「あさって」「17日」のような日付の言葉は、AIには読み取らせるだけで、何月何日かの計算はプログラム側で確定させています。AIが最も間違えやすい仕事を最初から任せない——これも精度の種明かしのひとつです。

04

作る数が、先に見える。

注文台帳のページ。日付ごとのブロックに品目別の製造数と注文一覧が並ぶ
受取日ごとに、品目別の合計が立ち上がる

台帳のページは、受取日ごとに注文をまとめて、品目別の製造数を先に見せます。「17日の朝は、鮭が25個」。紙の束をめくって数えていた数字が、登録した瞬間に集計されている。仕込みの計画は、このページを見るだけになります。下には注文の一覧。領収書などの注意書きは赤く目立たせています。

このページは、誰にも宣伝しないこれは客向けのページではなく、店主だけが見る帳面です。URLを知っている人だけが開く場所として運用し、検索エンジンにも載せません。ウェブページは「みんなに見せるもの」だけではない——店の中の道具にもなる、という使い方です。

05

ひらがなでも、書き損じでも。

メモの拡大。「さけ 20」を二重線で消して25に書き直してある
「さけ 2̶0̶ →25」。この書き直しを、25として読んだ

実験では、わざと意地悪なメモを送りました。品目はぜんぶひらがな、数字は二重線で消して書き直し。それでも「さけ」は「鮭」として、数は書き直したほうの25として読み取りました。品目名は、あらかじめ店の品書きの一覧に照らして揃えるようにしてあるので、「しゃけ」「シャケ」の揺れも全部「鮭」に着地します。

読めないときは、読めないと言う受取日が書いていないメモを送ると、「⚠️日付が読めませんでした」と正直に返ってきます。それらしく埋めない。わからないことをわからないと言わせるのも、道具として信用するための設計です。

06

そして、完成形。

完成形 PC。注文台帳の日付ブロックに製造数タイルと注文一覧が並ぶ
完成 — 注文台帳(PC)
完成形 スマホ。8/17のブロックに鮭25・梅15・昆布10
完成 — 注文台帳(スマホ)

使ったのは、この連載でずっと使ってきた器ばかりです。LINE公式アカウント(無料)、GAS、スプレッドシート、静的なHTML1枚。そこに今回、AIの読み取りがひとつ加わりました。サーバーも月額のシステムも要りません。実物はこちら:おにぎり店の注文台帳(デモ)。架空の店ですが、仕組みは本物と同じです。

電話は鳴る。手はメモを書く。撮った瞬間、台帳になる。

電話とメモは、たぶんこれからも消えません。受話器を持ちながら書くには、紙がいちばん速いからです。消していいのは、そのあとの仕事のほう——メモを帳面に書き写して、数えて、まとめ直す「転記」の時間。今回の道具は、それを撮る一瞬に畳みました。書き方の決まりも、新しい習慣も要りません。いつものメモを、撮って、OKと返すだけ。